フラメンコ大好きSakuraのBLOG

フラメンコ歴だけは無駄に長いSakuraがフラメンコの感動を綴ります。たまに別の観劇記録もはさまります。最近書き始めたばかりの手前勝手な鑑賞記録です。

ガルロチ特別招聘公演ラ・ルピ&アルフォンソ・ロサ

2017年4月25日(火)東京(新宿)ガルロチ
【バイレ】ラ・ルピ/アルフォンソ・ロサ
【カンテ】マヌエル・タニェ/アルフレド・テハダ
【ギター】クーロ・デ・マリア

f:id:flamenco_daisuki:20170520031707j:plain


 そうか! フラメンコは男と女の踊りだった…!
今日という今日はそれを思い知らされた夜だった。
男がいて、女がいる。

生きとし生けるもののすべてはそこに始まり、すべての感動はそこから泉のようにあふれ出す。
 フラメンコ界を牽引する世界最高峰のアルティスタを招いてのガルロチ特別招聘公演は、万事控えめで隠す文化を育んできた日本人では、到底太刀打ちできなかろうと思えるほど、圧倒的な大人の色気に満ちた、本当にエスペシャルな舞台だった。


 真っ赤な衣装に身を包んだ大輪の薔薇のごときラ・ルピを中央に、3人の男たちが背後に付き従う。椅子に腰かけているラ・ルピが前傾姿勢となり丸くなる。椅子の上に展開されてゆく孤独の物語。赤地に白の水玉のタイも鮮やかに、アルフォンソ・ロサが柔らかなサパテアードを響かせる。彼女は一人。男たちに讃えられ、至高の存在となる。マラガの街角で偶然出くわして始まったかのような親しげなチーム感。ギターソロが効果的に差し挟まれる。乾いた音のトレモロは前衛作品を鑑賞しているかのような錯覚に陥る。二人のカンテが交互に声を響かせ合う。

 ソレアではサリーダだけで泣いている私がいた。胃に響くアルフレド・テハダの歌声。これは凄い。人はこんなふうに叫ぶように歌えるのだ。フラメンコは魂の叫びだという人がいたが、まさにそのもの。アルフレドの嗄れた声に、魂が張り裂けそうな想いを味わう。ガルロチの音響はいい。生の声のほうがいいと思う私にも、奇跡のように快感を届けてくれる。
 胸を掻き毟られるカンテ、そして星屑のように降ってくるギターの音に包まれる。

大人のソレアだ。上品で洗練された印象を受ける。

 ラ・ルピはゴージャスなマントンを纏って登場。中は光沢のある黒地に黒の織りの異なる水玉が浮かぶドラマティックな衣装だ。突き出された腕にドキッとさせられるタラントの始まり。マントンが宙を斬る。風の化身となった彼女は歌そのものだ。彼女の激しく胸を打つ独特な仕草に、ギターと踊りとカンテが渾然一体となって爆発する。

 赤い照明が女の血のようにも見える。ピカソの描く女を思い出す。女が見たいか。ならば見たいものぜんぶ見ればいいと言わんばかりの生命力の極限が、ラ・ルピの体を超えて全空間に表現される。何度も何度もくり返される迫力のブエルタは、女の曲線を見せつけてくれた。大人の色気全開である。
 ゆっくりと舞台を歩き、観客を睨めつける。全に女を滲ませくねる体。二人のカンテが立ち上がり、最後の瞬間へと向かう男と女。男の胸の中でマントンを纏わされるという演出。この時もあの時も慈しみながら、彼女は人生という舞台を終わらせる。
 そんな迫力の彼女だが、一枚のエプロンを着けただけで別の女になる。役者だな~。

 夜が更けるにつれ男と女の爆発力が増してゆく。

1部のややソフトで洗練された雰囲気など、どこかに消え去ったかのようだ。照明は落ち、秘めていたものを曝け出す夜がやってくる。端正な顔の王子でさえ、獰猛な獣性を剥き出しにする夜の闇。

 ゴージャスなサパテアードから始まったのは、粋男と女のアレグリアス。2部に至って、この二人のバイレをここまで堪能し尽くせる贅沢を思い知らされる。男も女も実に様々な表情を見せてくれる。大地を抉るかのような爆発的な音が続く。身体中を打って絞りだす腕の表現が凄まじい。

 アスリートのごとき集中力の中で、踊り手はどこまでも自由だ。本当の自由はこの集中した瞬間にのみ生まれるのではないか。
 1部のソレアではどちらかと言えば上品で洗練された印象だったアルフォンソ・ロサの踊りが、2部のファンダンゴから始まるソレア・ポル・ブレリアでは、爆発するサパテアドと共に、野獣になったまるっきりで豹変したかのような男ぶりを見せつけてくれた。

カ、カッコイイ…と目が♡になるワタクシ。

f:id:flamenco_daisuki:20170520031741j:plain

 余談だが、フィン・デ・フィエスタのブレリアでラ・ルピが首に巻いていたのは、1部でアルフォンソが着けていたタイだった。男と女の睦まじさを感じた一瞬だった。
 ラ・ルピのパートナーであるギタリストが両手を挙げ、観客のハートをまとめて持っていった。

f:id:flamenco_daisuki:20170520031802j:plain

 余談2;すっかりアルフレド・テハダのカンテに魅せられた私は、CDにサイン入れてもらってウキウキ購入。昨夜のカンテをぜひもう一度、と次の日うちでかけてみた。音響は実に素晴らしい。このところ古いモノラールの録音CDばかり聴いていた耳には、爽やかなほど。が、昨夜のあのド迫力な音楽世界は展開しなかった。

 フラメンコはやはり生がいい。CDは記録。思い出すための道具だなと思い知った次第。あとは自分的にラブを保存しておくためのもの。うむ。

 ふーっ。と大きく吐息。
 終演後、友人と今夜の舞台についてあふれた想いを語るとき、「カカオ99%の濃厚さだった」などと茫然とつぶやいた自分がいた。
 ガルロチのプログラムは1部だけで帰ってしまう方もけっこういてびっくりしたが、ぜひとも2部までがっつり堪能することをおすすめする。ぜんぜん違う顔を見せるバイレたちがそこにいるから。

 

追記;ガルロチの音響はいい。二人のカンテの渾身の歌声が、生の感触は一切失われないまま、最大限の迫力をもって私の耳と魂に響き渡った。